僕は人生にうんざりしていた。人生だって僕に対して呆れていただろう。
お互い様だが、実際に人生を生きているのは僕だったので分が悪かったのも確かだろう。そんな時にモナという少女に出会った。
モナは絵の中の少女だった。
✳︎モナの描写や心情を追加
有り体に言えば一目惚れだが、僕に二次元趣味が強かったかと言えばそんな事はない。傾向も無かった。それがたまたま入った画廊で出会ってしまった
※奥にはHetHの作品も描写の事
時として芸術作品は人を殴るようだ。本当に殴られた様な衝撃を与える事が出来る。そんな体験はそれほど多く無いにせよ僕には起こった。
まあそれがモナとの出会いだった。モナの作者は全くの無名だったし今でも無名だろう。他の作品には全く興味が持てなかったが、この絵だけは自分にとって物凄い吸引力を持っていた。
絵画の知識がそれほどある訳ではないが、技術的にもあまり感心できないものの様な気がした。画廊に入ってからあまりにも長い時間見ていたからだろう。画廊のオーナーが話しかけてきて、この作家は新人で他にももっと良い作品があると言う。
モナの絵をうまく理解していなかった僕は他の絵も見せてもらい、他の絵に全く興味が持てない事は分かった。つまり絵ではなく、描かれていたモナにしか興味がなかったのだった。直ぐに購入の契約をし、受け取れる日を確認してその日はそれで画廊を辞した。本当は持って帰りたかったが、展示期間が終わるまでは難しい、と言う話で仕方がなかった。約束の日に画廊に引き取りに行くと作者に紹介された。僕にとっては作者には興味が無かったが、購入のお礼が言いたいという事で無碍に断るのは悪い気がしたので話すことにした。
作者はまだ若く、何処となく線の細い存在感すら希薄な様に感じる人物だった。
一通り儀礼的な感謝の言葉を告げた後に彼女は聞いてきた。
「失礼な質問かもしれませんが、何故あの絵だったのでしょう?自分としては他にも自信のある作品が展示してありました。購入していただいて申し訳ないのですが他にももっと良い作品があったはずですし、自分としては展示空間の隙間、そう計画していたように作品を空間にインストールしてもなぜかうまく空間が構築できない事があるんです。勿論経験不足も有るとはいえ、必ず何か不測の事態が起こるのです。そんな時の為に作品は余分に用意しています。通常は試行錯誤をしてやっとこれかな、と落とし所を見つけるのですが、今回は、あの絵を置いた瞬間に決まりました。まるでパズルの最後のピースがハマるように。実際に私はカチッとおとがきこえました。勿論脳内の幻聴ですが。そして今回、展示作品にかなりの自信を持って展覧会を開催したのですが、残念ながら売れたのはあの一点だけでした」と、すこし自嘲的な微笑みを浮かべ、言葉を切った。「僕は絵については素人だし、技術的な事や業界のセオリーも全く知りません。ただ、あの絵を目にした時に、これは所有すべきだ。いや、しなければならない、と強く感じました。理由はわかりません。ただ、展示の最後に配置して、それが合致したのであれば、それを選んだ事を評価していただく方が建設的かもしれません。それとお聞きしたかった事があります。作品タイトルのモナはこの少女の名前なのでしょうか?」一瞬彼女は呆気にとられた様にポカンとしたが、すぐにクスクス笑ってくれた。僕のユーモアは分かりにくいが(自覚している)伝わったのでよかった。
「そうでしたか。わたしにもわかりませんが、それほど強く何かを感じていただけたのなら作者としては感謝の念しかありません。それとおっしゃるとおりタイトルのモナはこの子の名前です。これはシリーズ作品で数字からタイトルをつけていました。
*シリーズの意味を膨らませること。祖父が〜とかルーツ的なもの?
1番目の作品だったので単一を表すモナドという言葉からモナとしました。でもあの絵は色々楽しめると思います。*傍点を付けたい。また次の展示を是非御覧になってください」
と彼女は言ったが、もう僕は彼女にも彼女の作品にも興味が無いだろうと考えていた。だがそんな事をそのまま言っても仕方ない。
「ありがとうございます。是非連絡を下さい。楽しみにしています。」
そう言って作品と共に帰宅した。
作品を自宅にセットして眺める日々。
毎日発見があった。
思うに絵は作者のものでありながら作者のものではないのではないだろうか。
だって一人の人間が何かを作り出す時それがその人だけの能力であるならとても不公平な気がする。
表現の源みたいな川は誰にも等しく流れていて、それを汲み上げる手段がバケツだったりスプーンだったりしてバケツで一瞬だけ組み上げる人もいれば、長い期間スプーンで汲み上げる人もいる。その手段を先天的に持つ人もいれば後天的に獲得する人もいる。とにかく誰でもその源に触れることは出来る、と思わないとあまりに不公平すぎる、と思うのはセンシティブ過ぎるだろうか?
作者の何かを通じて人々の目の前に出現する。作者は通路に過ぎず、通路である事に徹する事で作品というか何かを通す事が出来る。それを自分の力と勘違いした時に作品(と呼ばれる何か)という水は流れなくなるような気がする。あくまで素人の持つイメージではあるが。当然、源に気がつかない人もいるだろうし、源から汲み上げるためには本人の努力も必要だろう。
彼女がここに並々ならぬ力を注力していたことは絵を見て分かった。
その世界を構築する要素、つまり描かれているものひとつ一つが細心の注意を払って描かれ配置されているのだった。
絵を購入して暫くしてから夢にも出てきた。そこは絵の中の世界で僕は実体を持たない幽霊の様な存在だった。
彼女たちは生き生きと生活していて、僕は実体が無いまま傍観者としてそれを眺めているだけだった。夢の中の住人としてその世界の人々と関与することはあるが、この世界に限っては不自然なくらい僕は無視されていた。まるでマトリックスに入り込んだネオが周りの人間から悪意を持たれていたように。
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ある時、背面にも作品が描かれていることに気がつく。僕の好きなデューラーについての本を読んだからだ。(エニスハイムの雷石の話を読んだからだ)
絵の裏の絵。そんな事があるんだ、と思ってモナの裏を見てみた。
これを何故作者は伝えてくれなかったのだろう。忘れていたのだろうか?
それは表の絵と全く異なり荒々しく不吉な印象さえあった。
その意味を知りたくて画廊に連絡をした。作者の連絡先は聞いておらずギャラリーに繋いでもらうしか手段がなかったのだ。
あの時のオーナーが対応してくれたが、彼女も戸惑っている様な口調だった
自分も連絡をとりたいのだが電話もメールもメッセージも全く通じなくなっているのだと。
作家とギャラリーはまだ契約を行っておらず、試験的に展覧会行っただけで、義務的なものは何も発生していない状態だという。
「もちろん、アーティストなんて、良い意味でも悪い意味でも常識が欠けている人は多いし、ウチが老舗と言っても気に入らないで一回やってそれっきり、ということも無いわけじゃない。でも彼女は比較的誠実で今までこんな事はなかったので心配はしているの。連絡がついたら必ずお知らせします」と彼女は言ってくれた。それ以上は何も出来ないので待つしかない。
ネットで検索しても驚く程情報が無かった。作品を発表する人としては珍しいのではないか?
そもそも見えない様に絵の裏に絵を書くなんて事があるのだろうか?意味がわからない。
しかし少し調べてみるとそれは珍しい事ではない事がわかった。
しかし彼女は何故そんな事をしたのだろう?
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裏面に気がついた晩の夢もそこに行く夢だった。
そして彼女は僕に気づいたのだった。
「こんにちは幽霊さん。なんとなくいるのは感じていたけど今日ほどはっきり見えた事はなかった。アレに気がついたのね。アレはこちらへ来るためのキーなの。」
(キーってなんだ?これは自分の夢だから自分で勝手にアレが何かの意味を持つ、という事が夢の中のモナの言葉として出てきているだけなのだろう、と思った)
しかしその考えも彼女には筒抜けだった。
当たり前か。だってこれは自分の夢で自分の思考の中なのだから。
「これは確かにあなたの夢でもあるし、あなたが夢と考える以上、ここの出来事は全てあなたの意識の中にあると言える。でもそうじゃないのよ。」
(と彼女が言うが僕にしてみればそれも僕の意識の中の出来事で僕の願望の様なものだといえる、と思った)
が、当然それも彼女には筒抜けで、彼女はため息をつきながら
「そう思うのは当然だけどそうではないのよ」と言った。
何故?と思う僕の疑問を受けて彼女は言った。
「上手く説明できないのだけど、それは私のせいじゃない。あなたと私の土台が違い過ぎているだけなの。それは言っておくわね。ここが夢であって夢ではない、と証明するにはどうすれば良いと思う?」
「少なくとも僕の知らない事実がここで示されれば良いのでは?」と僕。
「知らない事実をどうやって定義するの?知らないと思っていても忘れているだけかもしれない。忘れていることは思い出せない限りわからないし、それをあなたには判別できない。違う?」
「確かにそうだ。知らない事(とおもっていること)と忘れている事の区別は僕にはつかない。思い出せば別だけど」
「そう。だからあなたは夢からさめたら覚醒している状態である場所に行けば良いの。そこでは現実と夢がつながり、この夢が夢でない事がわかるはず」
「うーん、一理ある様な気もするけど今ひとつよくわからない」
「とにかくあなたは目覚めた時にこの事を少しでも覚えていて、手がかりを見つけるしかないの。待っているわ」
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「それはお前、考えすぎだよ」と奴は言った。根は良い奴なのだが口は悪い。それで相当損をしていると僕は思うのだが、奴は一行に気にしていないようだった。
「オレが口が悪いのは認めるし分かってる。でもそれで拒絶する奴はオレは馬鹿だと思ってる。そんな馬鹿に親切に分かる様に話をする事に意義を見出せないんだよね。なんでそこまで?と思う訳だ。それをオレは小学校三年生の時に悟ったんだ。」
「その理屈は分かるがお前が損をしていないかが心配なんだよ」と僕。
「当然お前の心配は織り込み済みだ。しかし馬鹿に気を使っても見返りはない。」
「いや〜そうでもないんじゃないか?何か自分で分からないことで救われているかもよ」
「何かってなんだ?そんな不確かなものに自分のリソースを投下したくない。」
「だから、自分でコントロールできない何かだよ」
と何時もの会話になってしまった。
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目が覚めた。
なんの夢を見ていたんだっけ?
とても大事な夢だったのだが、大事と言う事だけを覚えていて中身を覚えていない。夢あるあるだ。そんなこと言ってる場合ではないほど大事な夢だった気がする。
裏面の絵が関係している様な気がする。
もう一度絵を調べてみるか。(何故彼女はこの絵にこんな事を仕込んだのだろう?)
絵を見ていると、ふと陽射しが絵の表面に落ちて絵が二つに分割された様に見えた。
そして裏と表の絵が一体となってある図が浮かび上がった。
*もしくは光を通して絵の影が机の落ちて何かを結像する
絵は抽象的だったが、見方によれば地形の様に思える。
あとは謎の様な記号や言葉。
[ここに図版]
それを解読するとある場所を指し示しているようだった。
そこに行かねばならない。
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そこに行く事になって、奴は自分から同行を言い出した。
「だってお前山なんか行った事ないんだろう。どんな山だって軽く考えてはいけないんだよ。」と元ワンゲル部の奴はいった。
その道中は何処からか夢の中の様になり(彼女が夢の中にいるのか、自分が夢の中にいるのか分からなくなり)
最後に彼女の会えたと思ったら、自分が消えていた
いや、消えたのか、絵の中の世界に入ったのか?
「幽霊さん、こっちに来れたのね」
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そして絵は作者のの元に戻る。
いつかギャラリーに展示され誰かの手に渡るのかもしれない
✳︎その場所は自身のルーツでもあった
HetHのappearanceのシーンを使用
✳︎よくUFOが目撃されるので有名な場所
✳︎祖父は代々地元の宗教儀式を司る家系だった
✳︎僕の父が合理的な人物で宗教から遠い存在だったため祖父とは疎遠になっていた
✳︎しかし幼少期ん頃には祖父が見込むほど僕には何か特別なものがあった
✳︎しかし父がそれを嫌い合わせない様にしたんだった
※この絵はメランコリアを一部引用している(彗星部分)