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入り口を潜るとレセプションがあり(誰もいない)フロアを登るとドアが並んでいる。
どこに入ればいいのか?
たまたま目についた237号室に入ってみる。
部屋に入ると誰もいない。
インターフォンのようなスピーカーから声が聞こえた。スピーカーだけでなく赤いランプも明滅している。
「ここにいるということは、だ。君は多面体(polyhedron)に触れたわけだ。」
「多面体?それはなんだ?」
「さっき覆いかぶさってきたものだ。あれに触れた以上は以前とは同じってわけにはいかないよ。」
「どういう意味だ?そもそも君はだれだ?」
「私は・・誰でもよい。仮にHとしておこう。」
「H et H と関係あるのか?」
「いや、偶々だ。名前の最初がHなだけだ。テーブルの模様をよく見てみたまえ。そこに次の行き場所が示されている」
「場所?模様しか見えないのだが・・」
「その模様をよく見てみるんだな。見たことはないか?」
「ただの三角形に見えるが。。いや、これは?」
「シェルピンスキーギャスケットという。自己相似形、数学的には面積は0だ。」
「0!見えているのに。。面積が無いっていったい。。」
「驚くことでもないだろう。見えている事と、あるかないかは別の話だ」
「どういうことだ?」
「例えば幽霊を見た男の話だ。見えたのは本人にとって真実だ。事実は分からないが、あるなしは誰にも分からないが本人が見えたのならそれはあった、という事だ。」
「何か詭弁のようだが。」
「それもそう思うのは人それぞれだ。とにかく大事なのはそこからどんな意味を見出すか、だろう。」
それを見ているとまるでヒッチコックの「めまい」のように視界がぐらぐらしてきた。
「これが必要だ」
とHが言うと、テーブルにデバイダが出現した。
「左手で持ってみたまえ」
左手で持つと、何故かとてもしっくりとくる。
「デバイダは”区切るもの”だ。ここでフェーズが区切れる。」
「フェーズ?何を区切るって?」
「君は渦中にいるわけだが、それを理解する必要はない。後で考えたまえ。いま大事なのは進むことだ。デバイダが指し示すだろう。」
偶々入った部屋、それは存在しなかった部屋217号室。
忌まわしきオーバールックホテル。
キューブリックが映画「シャイニング」を撮影したときにジャックが入る特別な部屋のルームナンバーが237号室としていた。
え、217号室はどうしたって?
キューブリック曰く、撮影時に実際に存在するルームナンバーを映画で(不吉な)使い方をして後々ホテルに迷惑をかけないように217号室を237号室に変更したと言ったらしい。しかし217号室はそのホテルには存在していなかった。
存在しない部屋番号をわざわざ変更したのは何故なのか?
もちろんそれはわからないがキューブリック的世界では存在しなかった部屋がここでは存在したようだ。
因みに237号室の由来は月までの距離(237万マイル)からきているという説もある。キューブリックの例の疑惑からだそうだ。
そして語っているスピーカーのHは”もちろんHeuristically programmed ALgorithmic computer 9000の H なのかもしれない。
テーブルに展開しているのはシェルピンスキーギャスケットでフラクタル図形のとても有名なパターンである。自己相似形で面積は数学的には0という。その延々とズームできる形状はこれから黒須が進むであろう世界を暗示してもいる。