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memoream

R-4-1


急激に上昇して落ちる、という感覚。巨人に掴まれて急に垂直方向に引っ張られて、ふっと力を抜かれる、という感じだろうか。急激な動きに伴う目眩。
めまいが治まるまでどのぐらいの時間が経ったのか。
一瞬のようでもあるし、物凄く長い時間だったような気もする。
上に引っ張られたはずだが、今は落ちてきたような感じがある。
時間と空間の感覚がおかしくなっているようだが、不思議と気持ちは落ち着いている。

「こっちだ」
声が聞こえたが姿が見えない。
「こっちだ」
また声が聞こえた。
床の方から聞こえる。そちらに目を向けると光るものが二つ見えた。

何かの動物か・・犬?
「よく来たな。俺の見かけは犬だが気にするな。しゃべる犬に合ったことはあるか?」
くっくっくと、その犬はいかにもおかしそうに笑った。犬が笑うのであれば、だが。
「気になるが、そもそもここがどこか分からないし、ここにいること自体が分からなすぎるのだから犬が喋ったからと言ってどうという事はない。というか自分の正気を疑うレベルだ。」
「まぁ賢明だな。偉いよ。この状況で客観視できてるのだから」
犬に褒められた。
「俺の名前はシだ。名前は関係ないと思うだろうが、名前は大事だ。名づける事によって物事は実体化する。手で触れるような実感が大事だ。犬には足しかないがな。」と言ってまたおかしそうに笑った。

「名前が大事なことは同意するよ。でも次にどうすればいいんだ?僕は HetH に会いに来ただけなのだ。」
「わかってる。そのためには手順を踏まないといけないんだ。細かく話すことは出来ないんだが、ルールは単純だ。場所場所でアイテムを手に入れる。それが次のエリアに進むツールになる。ここではアイテムとして数値を手に入れなくてはいけない。」

「数値ってなんだ?」
「次への扉を開けるものだ。ここでは次に進むためのアイテムを渡す。Melencoliaの魔方陣は知ってるよな?」
「ああ、縦横の数値の和が...34だったな。」

「そうだ34。数字だ。魔法陣の数字である。34は最初の完全数6と次の完全数28の和でもある。これは大事な事だ。」
「3、4と連続する数値でもある。連続する数値。次の部屋。つまり次の部屋が五という事?」

一瞬、シが虚を突かれたような顔をしたように見えた。
「そうだ。次は5番目の使者が待っている」
「当たりか!そして、これはどこまで続くのだろうか」

「俺にはわからない。とにかく進むしかないんだよ。帰り道はないのだから。」
「帰り道がない?」
「あぁ、言い方が悪かったな。戻ることは出来ないのは確かだ。進めば戻れるかもしれない。帰り道がない=帰れない、ということではないよ」
「むぅ」
「ではこちらに」
シは次のステージへ導いてくれた。

 

【注釈】
「シ」は「四」であり「死」であるのかもしれない。
犬は4つ足で、従順さの象徴でもある。以前の作品Number Book1でも4は犬をモチーフにしていた。
学者、知性のの象徴でもある。何か思わせぶりな語り口もその知性によるものなかもしれない。
シのいる床にもシェルピンスキーカーペットが配置されている。シェルピンスキーギャスケットから一つ次元が上がったことを示唆しているのだろう。
このフィールドでは数字が大事な要素になっている。
メレンコリアで4に纏わるものといえば、もう一つ魔法陣になる。魔法陣は矩形であり4x4のマスからなっている。そしてその魔法陣は木星からの影響を表す。木星は憂鬱気質を緩和するものでもある。
2001年宇宙の旅でも映画版は人類が目指す惑星が木星であったことも重要な点である。そして魔法陣で各行の和は34である。
4だけでは連続性が不明であるが、3と繋がることで次の数値が5、という明確な方向が示されたのだろう。
34は不思議な数字である。34という数字は半素数であり2x17の二つの素数の積で表される。また最初と2番目の完全数(6、28)の和でもある。完全数は約数の和がその数と一致する数である。6の場合、約数は1、2、3なので1+2+3=6という事になり、28は1+2+4+7+14=28となる。
ちなみに34は偶数の半素数かつフィボナッチ数である唯一の数である事は特筆すべきであろう。
デューラーはそこまで考えていたのだろか。