-シに言われてきたフロアには巨人がいた。
巨大ロボット、喋る犬ときては特に何がいても驚くには当たらない。
巨人は昔見た映画「Alien」でノストロモ号のクルーが発見した異星人の化石を思い出させた。
しかし彼は化石ではなかった。
巨人がこちらを向いた。
黒須が言った。
「シに言われてきた」
「シか。もう長い事あってはいない。シが寄越したということはお前がヤツなのか?」
「ヤツ?」
「シがそう思ったのならそうなのかもしれない。お前がヤツならカギを渡す。そうでなければ渡せない。今まで何人も来た。」
「何人?そうなのか?」
「自分が最初だと思ったか」
「いや、何人目とか考えもしなかった。」
「そうか。皆、自分の意思でやって来ていたし前の奴らの事も知っていた。お前は少し違うらしい。まぁ、H et Hのファンはそれなりにいたからな」
「そうかもな。予備知識ゼロだ。そもそも何故ここにいるのかも分からん。」
なんとなく巨人が笑ったように見えた。
「誰かが送り込んだのかもしれない…」
巨人は独り言のように言った。
「誰かって誰だよ。こっちは急に訳の分からないところに連れてこられて何も分からない状態なのに!」
少し怒りながらいってしまった。怒りがあると怖いことが減じるタチらしい。我がことながら知らなかった。
「そう怒るな。俺はずっと座って待っているだけなのだから。ある意味望んだ事ではあるが。」
「なぁ僕は訳も分からずこの場所にいる。何かヒントでもくれないか?。」
「ヒント。ヒントってなんだよ」
「ここがどことか、なんでもだよ。こっちは何も分からない状態なんだから!」またキレそうだ。
「何もわからないって、お前は此処にいるじゃないか。そして次の所に行こうとしている。ちがうか」
「いや、次ってのも分からん!」
「そうか。お前は正直に言っているかもしれないが、誰かがお前を真っさらな状態で送り込んできているのかもしれない。。」
「誰かって誰だよ。」
「誰かだよ。今まで何人も来て、この世界の秩序を崩そうとした。シを騙したり、すり抜けてきたり、そして俺から鍵を受け取ろうとした。そして失敗した。
「失敗するとどうなるんだ?」
巨人は答えなかったが、沈黙が答えのようだ。要するに知らない方がいい、という事なんだろう。
そもそも H et H に会いたいと思っただけでこんな状態になるとは思わなかった。
ここでリタイアする、ってのはありなんだろうか?
「ここで帰るって選択肢はあるのかな」極めて軽い調子で聞いてみた。
「いや、ない」
「じゃあ、あんたから鍵をもらうか、それ以外って事か」
「そういう事になるな。」
「もらえないとどうなる」
沈黙。同じ事らしいが愉快なことではなさそうだ。
神宮ミュージアムに置いてきてしまった女の子のことがちょっと気になったが、そんな事を言ってる状態ではないらしい。
今までは比較的友好な相手に恵まれていたのだろうか。
「どうやって判断するんだ?」
「簡単だ。シから受け取っているか?」
「魔方陣を受け取った。」
「それで。」
「受け取ったものはこのタブレットに格納してある」
「それについて何を知っている?」
「34。34は最初と二番目の完全数6+28の和。あんたにそれに関するものを受け取る、という事らしい。」
「そうか。鍵は行き先を導き扉を開ける。その通り6つの鍵だ。」
巨人がカギを渡す
「私の正面の通路を行け。突き当りを曲がったところで小さき者が導くだろう」
シからのメッセージは魔方陣の34。34は黒須が知っていたように完全数6と28の和である。
6が次のステージで使用する鍵の数と一致していたので鍵をもらえたようだ。
しかし、ここでも黒須は自分だけが何もわかっていない状況に置かれ苛立ちが表れている。
感情的なものが出てくることは良いことだ。映画2001年でも記憶を抜かれるHALは確実に感情が芽生えていた(それが恐怖であったとしても)。
抱えた状態で任務を遂行することに関して意識化されない何かがHALに芽生えたとするなら、感情を学習してないHALは持て余してしまったのかもしれない。
話が逸れたが、旅を続ける黒須=HALは疑問を持ちながらも進まざるを得ない存在としては似た者同士である。